「魚はエサではありません、魚は友達です」

姉・母と「ファインディング・ニモ」観てきた。
ラストサムライ」と二択だったんですが、姉の希望優先順位を尊重。

「ファイティング・ネモ」じゃないよ。似てるけど(お

モンスターズ・インクでは大人向けのシニカルな笑いがてんこ盛りだったので大変楽しめたのだが、今作ではどうだろうか。「3Dでよく動き、擬人化が上手」というだけで娯楽とするのはそろそろキビシイ気もしていた。ディズニーが2Dアニメーターを大量解雇したという話もあり、複雑な心境で客席に入る。

しかし………ニモが実際に始まるより遙か前にその解雇という事情を納得してしまった。
ディズニーの新作「ブラザー・ベアー」の宣伝である。キャラが、綺麗に2Dにレンダリングされて大変よくぐにぐに動いているが………3Dのポリゴンモデルから起こしているように見える。推測であるが。
http://www.disney.co.jp/bbear/index2.html
冷静に考えてみたら、ディズニーは、かなり前から3Dモデル+トゥーンレンダリングでのアニメーション作りをしていたような気がする(昔、何かの映画のメイキングでモデルを動かしてるのを見た記憶がある)。PIXAR作品が有名過ぎて忘れていたが。ディズニーのキャラクターを描いて動かすのに、もはや2Dオンリーの技術屋は不要なのかもしれない。
(いずれにせよ、このCMのおかげで、変なわだかまりを忘れることができた。)

PIXARの映画を観るのはモンスターズ・インク以来二度目なので「いつも」かどうかはわからないんだけど、また本編開始前にPIXAR製短編アニメが上映された。机の上に置かれた人形たちの繰り広げるコメディである。動きのかわいらしさ、どんどん大げさになる小道具(まるでロードランナーのコヨーテのよう)、リアクションの極端なアニメーション。コメディアニメの基本を突いた、愉快なアニメーションであった。

さて、本編開始。のっけからサメの襲撃で愛する妻を失うニモの父、マーリン。亡き妻が身を挺して庇い、生き残った1粒だけの卵………それがニモである。……という、大変重い展開でスタート。過保護父の誕生である。

マーリンの過保護ぶりにいらつくニモが反抗、そのせいでダイバーに捕まってしまい、父は息子を捜して大冒険、ニモは人間のもとから脱出を試みるという展開なのは、ご存じの人も多いだろう。

結論から言うと、結構おもしろかった。
「凄くおもしろかった?」と聞かれたら「微妙………」と答えるかもしれないけど。
#………やっぱり、モンスターズ・インクの時の衝撃が大きすぎたんだよ。

ここから先はちょいとくどいかもしれないので未見の人は飛ばしてもらったほうがよいかもしれない。

しっかりとした、正統派ハートフル冒険コメディである。メインテーマは父の愛のあり方と子供の自立。泣く人は泣くでしょう。

私はどうも、ひねくれものなので、正統派なところよりも風変わりな部分が楽しい。一番気に入ったのはカモメ。「エサ?(Mine?)」「エサ!(Mine!)」しか言いませんが………。そのサブサンプションAIぶりが強烈なキャラ群。どうも、企画説明会で展開の説明に詰まった監督が即興で作ったキャラらしく、なんと監督自身が声を当ててるそうな!

シニカルな笑いはモンスターズインクほど多くないのだが、セリフ回しのはしばしに時折はさまってくるのがなかなか小憎らしくおもしろい。展開の中で見える黒い笑いとしては、サメの「禁魚の誓い」。禁煙をパロっていてめちゃくちゃおもしろい。

この禁魚の話もそうだが、人間のモーションを取り込んで擬人化する手法の延長として、人間社会の風俗をパロディする局面が大変多く見受けられた。ただ、この手法自体はモンスターズ・インクで経験済みなので、あまり驚きはなかった………驚きがないと、ネタ自体が凄く良くない限り、腹が痛くなるような笑いは起きないんだよね。なかなか難しいところ。未経験の人はゲラゲラ笑えるのかな。このあたりは個人的にはやや残念だ(もっと笑わせて欲しかった)。そういう映画として設計されていないのだろうから仕方ないけど。手法の主目的を「風俗面でパロディを取り込むことで、キャラクター達の擬人化をさらに深め、感情移入度を高める」とするなら、その点には成功していると言える。

笑ったところを逐一あげると「ギャグをいちいち説明する」状態になっていまいちなのでこのぐらいにしておこう。

アニメーションに関しては、3DCG表現を上手に生かせる題材を考えて選んでいるなあ、と感じた。小魚の世界は、トイストーリーと同じ、ミクロ世界+マクロなリアル世界という構図である。3DCGはどうもオモチャ感がつきまとうところあるんだけど、ミクロ世界の描写としてならそれはまったく許容されるし、かえってきわめて効果的だ。マクロ世界の描写には、ところどころ実写や実写風のテクスチャのモデルを使って、うまく「ミクロ側から見たマクロ世界」を表現している。

まあ、定評通りおもしろいですよ、というところか。

でも将来的に3DCGの技術の目新しさ・凄さだけでは娯楽性たり得ないとすると、シナリオにはもうちょっといろいろ工夫が欲しいところと思う。今作でも実験的な要素はいろいろ盛り込まれていたが、まだトッピングとして乗っかっているレベルで、隠し味にはなっていない気がした。わがままな感想ですが、こんなところで。